【煮込み】は煮汁(ブイヨン)の中で長時間弱火で加熱する調理法です。
「茹でる」ー 沸騰したお湯で火入れ
「煮る」 ー 沸騰していない調味液での火入れ
「煮込み」は煮込みうどんの様なぐつぐつと沸騰させた液体の中で長時間加熱する調理法ではありません。ポトフや仔牛のブランケットは、よく知られた煮込み料理です。
煮込み料理には美味しくするルールがあります。ここでは主に肉類の煮込みについて解説していきますが、家庭のシチューやカレーでも使えるテクニックなので是非試してみてください。
ルール1 水が大事
煮込み料理で最も大切なのは水です。煮込んだ料理がブイヨンやソースになるなら、水はなおさら重要です。日本の水道水は安全とは言え、残留塩素が義務化されているので美味しくはありません。
美味しくない水から美味しいブイヨンが作れるはずがありません。煮込み料理では硬度300前後の中硬水ミネラルウォーターが理想ですが、水道水でも浄水機能やフィルターを付ければ大丈夫です。
メモ
硬水では肉の旨味成分が水に溶けだしにくい。野菜も柔らかくなりすぎず適度な歯ごたえを残してくれる。
ブイヨンは水に大きく左右されるので、これだけでも料理は格段に美味しくなります。フィルターや浄水機能が無い場合は、塩素は揮発性なので一度鍋で水道水を沸騰させてる事で塩素を抜く事ができます。
ルール2 温度・灰汁・煮込み中は沸騰させない
煮込み料理を作る際、料理本やレシピには「一度沸騰させて灰汁(アク)を取る」と書かれているが多いです。これはフランス語で「エキュメ」と言い、灰汁は丁寧に取る事で淀み無くクリアに仕上げる事が出来ます。エキュメの際に液体を沸騰させる事で脂や灰汁は液体の表面に集まり、より灰汁を取り除きやすくなります。流れとしては、初めに材料と液体を入れて一度沸騰し、エキュメをすれば煮込みに入ります。煮込み中は沸騰させずに68~80℃ぐらいの温度帯を維持する事が大切になります。
煮込む対象が肉や魚のみの場合、灰汁は臭みや不純物ではありません。灰汁は脂肪とたんぱく質が空気と混ざり凝固したものです。勿論、灰汁自体は苦くて不味いので取った方が良いですが、ここで言いたいのは正しく煮込めば灰汁は出ないという事です。
野菜の灰汁はシュウ酸を含む害悪な灰汁です。
肉や魚の灰汁は脂質とタンパク質なので無害です。
肉の灰汁は無害なら肉のみの煮込み料理では、初めの沸騰させて取るエキュメは必要ないかと言えばそうではありません。初めの沸騰では灰汁以外にも肉の表面の臭みを取る効果が期待出来ます。
具体的な煮込み方
例えばポトフではブイヨンの表面に小さな気泡が静かに上がってくる程度の温度(80℃)が上限です。もっと分かりやすく言うと指を湯に入れて1.5秒は我慢出来る温度が大体80℃です(自己責任ね)。この温度帯以下でゆっくりと煮込んでいくのです。
※ポトフ ー 塊の牛肉と香味野菜を香辛料で長時間煮込んだフランスの家庭料理
コラーゲンは51℃から徐々に変性し、68℃以上では溶けてゼラチン化が進むので、80℃もあれば肉に火を通し、肉のコラーゲンを溶かすには十分な温度です。こうして表面を揺らさなければ灰汁も出てこず、クリアで美味しいブイヨンが作れます。
常に湯(ブイヨン)が沸騰もしくは軽く揺れる状態では、湯は対流しているので肉に接触する湯の温度が下がる事はありません。これでは100℃近い温度で煮込むことになり、肉は筋線維が縮みパサパサで硬くなってしまいます。
しかし湯が静かな状態では、肉は湯の温度よりも低いので、肉に接している部分の湯の温度も下がります。これにより周りよりも温度が低い湯の膜が出来ます。湯の膜は僅かなものですが肉に接触する温度は、より低温で火入れする事が出来るのです。
煮込み料理はぐつぐつ沸騰しているものだと思っている方はかなり多いのではないでしょうか?とは言え、68℃~80℃近い温度を管理するのはめんどくさいと思う方もいるでしょう。沸騰させずに美味しい煮込み料理が作れるバーミキュラや二重鍋、炊飯器の保温機能を活用すると楽に温度管理が出来るのでおススメです。
ルール3 塩のタイミング
塩のタイミングはどの調理法でも重要になります。
煮込みの塩のタイミング
- 加熱前 ー 肉の風味は失われない ブイヨンには味が出ない
- 加熱途中 ー 肉の風味は少し失う ブイヨンの味は少し良くなる
- 加熱後 ー 肉は風味を殆ど失いパサパサになる ブイヨンは美味しくなる
※加熱前に塩を振るのは「煮込み」や「蒸し」の場合に限ります。
塩を入れずに煮ると肉の風味がブイヨンに流れてしまうので、塩は基本的には肉の加熱前に入れます。逆に目的が、ブイヨンや出汁を取りたい場合には塩を入れずに煮る事で肉の味が効いたブイヨンを取る事が出来ます。
また塩をしたブイヨンに肉を入れる際は、塊肉では表面を焼いてから入れるようにして下さい。塩水(ブイヨン)の中では浸透圧により肉の水分が失われまやすくなります。浸透圧は半透膜という細胞膜を介して水分が抜けるので、表面の細胞膜を焼く事で肉の水分を守る事が出来ます。
塩についてはこちら→お肉は塩のタイミングだけで美味しくなる!その効果と調理法
※浸透圧 ー 2つの濃度が違う溶液では、濃度の小さい方が濃度の濃い方へと溶媒が移動する現象。この場合塩の入ったブイヨンの方が濃度が濃いので肉からブイヨンへの溶媒(肉の水分)が移動する。
挽いた胡椒は加熱し続けると煎じられて苦く、えぐみが出ます。もしも煮込み料理に挽胡椒を使うのであれば、食卓で食べるタイミングに入れて下さい。
後で漉すスープやブイヨンで、粒胡椒を使用する場合でも1,2粒で十分です。
高級レストランの煮込み
「煮込み」は液体の中で加熱する調理法なので、どうしても主材料の味、風味が外に出てしまいます。液体(ブイヨン)は美味しくなりますが、主材料の味が落ちては残念です。そこで高級レストランが実際に使っている牛肉の煮込みを例に、その手順を紹介します。
1.牛肉の表面に焼き色を付け、香味野菜と香辛料を鍋に入れてから水を入れる。水は食材より5㎝以上は入れない。
2.沸騰させないように注意しながら3時間ほど加熱する。
3.牛肉の味が殆どブイヨンに流れて美味しいブイヨンが出来る。牛肉は取り出す。
4.ブイヨンに塩を入れる。食卓に出す別の牛肉の表面を焼き、鍋に入れる。
5.提供したい軟らかさになるまで煮込む。ここでも沸騰はさせない。表面も揺らさない。
1.野菜はお湯よりも水から火を通した方が甘味が出て美味しくなります。また食材の表面から5㎝未満の水分量の比率が、味が薄まらずに美味しいブイヨンが出来ます。4.前述した通り、塩は本命の肉の加熱前に入れます。
この方法ではブイヨンには既に濃厚な味が出ているので、本命の肉の旨味の流出は最小限に抑える事が出来ます。お店では出汁取りに使った食材は賄い等に利用されます。しかし家庭では少し勿体ないと抵抗がある場合は、市販のフォン(出汁)を使うのが現実的です。
フォン(出汁)は顆粒かペースト状で、大きめのスーパーでは普通に売られています。フランス読みのカタカナでフォン・ド・~と表記されているので是非活用してみて下さい。
フォンの種類
牛肉の出汁 ー フォン・ド・ヴォー
鶏肉の出汁 ー フォン・ド・ヴォライユ(中華の鶏ガラと同じ)
魚の出汁 ー ヒュメ・ド・ポワソン(あまり売ってないかも)
野菜の出汁 ー フォン・ド・レギューム
最後に
煮込みは技術も要らない簡単な調理法ですが、美味しくする為にいくつかルールがありました。
1つでも使えるテクニックがあれば嬉しいです(/・ω・)/