「焼く直前に塩を振る」や「塩は直前に振ってはいけない」などと料理本によっても矛盾している事が多く、ちょっとした塩のタイミングでさえも戸惑ってしまう事があります。
ここでは適切な塩のタイミングとその効果を解説していきます。
塩のメリット
まず塩をする理由は何でしょうか?
生野菜に塩を振るだけでグッと美味しくなります。これは塩が野菜の味を良くしたのではありません。人間の脳が美味しいと認識したのです。
塩をした生野菜が、人間の体液の塩分濃度0,9%(生理食塩水)に近い塩分濃度だったので美味しく感じたのです。これは”生得的美味しさ”と言い、人間は塩分濃度が生理食塩水(0,9%)に近いほど美味しいと感じます。そのため「包丁十年、塩十年」と称するほど、塩のさじ加減は重要なのです。
旨味やその他の成分と組み合わせると塩分はもっと少なくても嗜好性を高く維持出来ます。
肉に塩をするメリット
肉に塩をするメリットは前述した”生得的美味しさ”と保水効果です。
肉を加熱するとタンパク質はねじれながら凝固します。濡れた雑巾を絞ると水が大量に出てくる様に、ねじれたタンパク質からは水分が絞り出されます。水分が流れ出た肉は当然パサパサで硬くなってしまいます。
しかし塩が浸透した肉ではタンパク質の構造がねじれにくく変性されるので加熱しても水分は失われにくくなります。このように塩にはタンパク質の構造を変化させる作用があります。
また、こうした作用にはタンパク質が変性する為に、塩が肉に浸透していなければなりません。塩の浸透時間や調理法に応じた塩のタイミングについて解説していきます。
塩のタイミング
分かりやすい例はステーキを焼く場合です。
結論から言うと塩を振るタイミングは加熱の数時間~数日前もしくは加熱後の二択です。
塩が肉に1センチ浸透する浸透速度は、大体で鶏肉やラム肉では5時間、牛ステーキや脂身のリブロースは10時間、赤身のブロック肉では15時間かかります。
十分に浸透時間をかけた肉は、塩が肉全体に浸透し、肉の表面がわずかに乾燥します。加熱しても肉は水分を保ち、よりジューシーで綺麗な焼き色が付きます。試しにステーキに塩を2日前にしてみて下さい。これは実際にフランスの三ツ星レストランが実践している方法で、驚くほどの変化が楽しめるはずです。
加熱の直前に塩は一番やってはいけない!
肉を焼く際、塩には吸水性があるため「肉を焼く数分前から塩をしていては肉の水分が失われるので塩は直前に振る」と覚えている方は多いと思います。
しかし塩は溶けるのに5~10分はかかります。焼く直前や加熱中に塩をすれば塩は、溶ける間もなく焼かれる訳ですから、肉に塩が付かず、綺麗な焼き色も付ける事が出来ません。これでは浸透以前の問題です。
もし浸透時間が取れない場合は加熱後に食事をするテーブルで塩をして下さい。数時間前に塩をした状態には劣りますが、焼く直前よりは数段美味しく出来ます。例えば岩塩ではカリカリとした食感を残し、味覚を刺激してくれます。レストランでステーキの味付けにソースや岩塩が付いているように、加熱後の塩は理にかなった美味しさなのです。
「煮込み」では直接肉に塩をするのではなく、ブイヨン(液体)に塩をするのが一般的です。塩が入っていないと肉汁がブイヨンに流れ出てしまうので、塩は肉をブイヨンに入れる前に入れて下さい。塩を浸透させた肉を入れる場合は塩辛くなり過ぎないように注意しましょう。
「蒸し」や「蒸し煮」では加熱前に表面に塩を擦りこませます。「煮込み」と同様に肉汁を失わないのが目的ですが、この表面の塩は肉の内部には浸透しません。
最後に
古来より塩は「一番美味くて不味いもの」と言われる程に扱いが難しい調味料です。
塩の性質を理解し目的を明確にする事で料理はより美味しくなります(/・ω・)/