結論 糖質制限中でも炭水化物は食べてOKです!
糖尿病でない限り炭水化物は食べても問題ありません。炭水化物および糖質には血糖値を上げやすい食材と上げにくい食材の取捨選択が必要になります。では糖質制限について解説していきます。
糖質制限は肥満や糖尿病患者の為に体系化された食事療法です。血糖値を上昇させる糖質を制限する事で、食後の血糖値上昇を抑え、肥満や糖尿病を改善、予防していくという考え方です。肥満や糖尿病患者でない健常者がさらに痩せようと、糖質制限を取り入れるのは、本来の意図した方法ではありません。
糖質制限による死亡リスクや老化、脳の働きが鈍くなる(IQ低下)などの危険性がある一方で、糖質制限にはダイエット効果や糖尿病予防、老化防止などのメリットもあります。糖質制限の危険を理解したうえで正しい糖質制限を行う事が大切になります。
糖質について
一般的に糖質は甘いものや炭水化物を指す場合が多いですが、正確には炭水化物から食物繊維を引いたものが糖質になります。炭水化物には、体内では消化出来ないセルロースなどの食物繊維が含まれています。同じ量の炭水化物を食べた場合でも、含まれる食物繊維の割合により糖質の摂取量は異なるというわけです。
糖質は小さい順に単糖類、二糖類、多糖類の3つに分類できます。単糖類のような粒子の小さい糖質ほど甘味を感じやすく、吸収が早いため多糖類と比べても、肥満になりやすい糖質と言えます。逆に多糖類は単糖類が結合した糖質で消化に時間がかかるため血糖値の上昇が緩やかで比較的太りにくい糖質と言えます。
例を挙げると、お菓子や果物のような分かりやすい甘さが単糖類で、お米や野菜の様な分かりにくい甘さが多糖類です。お米のデンプンや野菜に含まれる食物繊維(セルロース)はブドウ糖(単糖類)が多数集合した多糖類で、お米を咀嚼し続けると甘く感じるのはデンプン(多糖類)が麦芽糖(二糖類)に分解されるからです。
前述しましたが、糖質制限は血糖値の上昇を抑える食事療法のため、同じ糖質でも血糖値の上昇が比較的緩やかな多糖類であれば糖尿病患者でない限り、そこまで神経質になる必要もありません。糖質制限を行うにあたり、まずは砂糖を含む食品など、分かりやすい甘さを控える事から始めてみるのもいいかもしれません。
糖質制限のメリット
ダイエット効果
気軽に実践できるダイエットの中では糖質制限が最も効果の高いダイエット方と言えます。糖質制限ではエネルギー源である糖質が不足すると、貯蔵されていた脂肪を燃やしたり、グリコーゲンをブドウ糖に戻すことで、エネルギー供給を確保します。
エネルギーが足りないので脂肪を燃やしエネルギーを補う。これが糖質制限が痩せる基本的な考え方です。脂肪を燃やすため、短期間でダイエット効果を実感出来ます。
また糖質は1gにつき3gの水分と結合する性質があり、糖質制限を開始して2~7日ほどで糖質と共に水分も抜けていきます。そのため浮腫みが取れ体重も減少しますが、脂肪が減り出すのは水分が抜けた後なのでダイエットが目的であれば体重が減ったからと終わりではありません。また糖質制限中は上記の理由から貯蓄された水分が無いため、脱水症には注意が必要です。
糖尿病などの病気の予防
食事から摂られた糖質は消化吸収され血液中のブドウ糖になり、血糖値が上昇します。血液中のブドウ糖は膵臓からでてくるインスリンにより筋肉や肝臓などに運ばれ、血糖値が一定に保たれています。しかし糖質の多い食事では血糖値の乱高下が激しく、インスリンを分泌する膵臓への負担が大きくなり、正常にインスリンが分泌されなくなります。正常にインスリンが分泌されず高血圧が続くことで糖尿病になります。
糖尿病は治す事が出来ず、糖尿病腎症や心筋梗塞、脳卒中などの様々な病気リスクが高まります。糖尿病予備軍(境界型糖尿病)であっても医師の下で適切な糖質制限を行うことで糖尿病を予防することが出来ます。自身の血糖値を把握し、適切な対策が必要になります。
血糖値チェック
空腹時血糖値が110以下、食後2時間後の血糖値が140以下 〇
空腹時血糖値が126以上、食後2時間後の血糖値が200以上 ✖
空腹時血糖値が110~126以下、食後血糖値が140~200以下 ▲
〇…正常型 ✖…糖尿病型 ▲…糖尿病予備軍(境界型)
老化防止(AGE)
老化には酸素によって細胞が錆びた様な状態になる「酸化」と、たんぱく質とブドウ糖が結び劣化する事で、焦げた様な状態になる「糖化」があります。ここでは糖質によって引き起る「糖化」について解説します。
糖化は脳梗塞や腎症、動脈硬化などの病気リスクを引き起こします。身近な例がシミやシワです。これは糖化の原因であるAGE(終末糖化産物)が体内に蓄積されることで起こる現象で、AGEは1度生成されるとなかなか体外へ排出されない厄介な物質です。
AGEは(糖質+たんぱく質)×熱で生成され、体温により体内で生成されることもありますが、ほとんどは食事から摂取されます。
AGEは褐色であるのが特徴で、基本的に焼き目のついた食事に多く含まれます。つまり食パンの白い部分よりも焼かれたパン耳の方がAGEは多く含まれていると言う事です。また動物性脂肪を含む、トンカツや唐揚げ、ポテトチップスなどにも多く含まれます。
糖化は料理には馴染みのあるメイラード反応と同じ意味があります。メイラード反応は料理でいうところの焼き目です。餃子やステーキの高温できつね色に焼かれた表面は香ばしく食欲を掻き立ててくれます。より高温な調理ほど食材の風味や旨味が増す様に、低温調理は食感以上の驚きはなく、レストランで食べる低温調理されたステーキも最後には必ず高温で表面に香りを付けます。少し話が逸れましたが、このように料理には高温を扱う事が多く、AGEは「生」よりも「焼く」、「揚げる」といった高い温度で多く生成されます。
対策として、パンケーキやワッフル、揚げ物等の褐色の食事を避け、加熱には「煮る」や「蒸す」とした水を使う100度以上にはならない比較的AGEが少ない調理法が有効です。また清涼飲料水やお菓子などの甘味料は体内でのAGE生成を促しやすくなるので注意が必要です。
余談ですがタバコのAGE含有量はヤバいです。タバコはメイラード反応そのものと言っても過言でありません。もはや喫煙所に焦げた餃子の羽を食べに行ってると言えます。糖化以外にも副作用があるので焦げた餃子の羽以下ですね(・ω・)
糖質制限のデメリット
体調不良や病気、死亡率の上昇
糖質制限をする上で最も大きなデメリットはやはり病気リスクです。3ヶ月で20㎏超えの糖質制限ダイエットに成功し、糖質制限の第一人者として活躍されていた作家の桐山秀樹氏が心不全により急死しました。この出来事により糖質制限の危険性がより身近に意識され今日までその安全性について議論されています。
主食である炭水化物が摂れない以上、必然的に肉食になりがちです。糖質(食物繊維)が減り、動物性脂質による中性脂肪や悪玉コレステロールが増えた状態が体に良いはずがありません。これは肉食に限った話ではなく、「PFCバランス」と言われる人体に必要な三大栄養素(たんぱく質、脂質、糖質)のバランスが極端に偏ると体が対応できず、体調不良や病気を引き起こす原因になります。
実際に英国誌による4万人を対象に16年間の追跡調査した結果、炭水化物を制限する食事を長期間続けると心筋梗塞や脳卒中になる危険性が1.6倍高まる研究結果がでています。またアメリカ国立衛生研究所では低炭水化物は死亡率を1.12倍高めると公言しています。それに対し糖質制限の安全性を示したエビデンスは未だにありません。
便秘等の腸内環境の乱れ
炭水化物は糖質と食物繊維が結合した栄養素です。炭水化物を制限すると、比例して食物繊維の摂取量も減少します。食物繊維が不足すると便秘や肌荒れの原因にもなり、長期に渡り大腸ガンや動脈硬化、高脂血症等の病気を引き起こす原因にもなります。
対策
炭水化物を制限する際、食物繊維も減少しているので野菜や海藻類等の食物繊維を多く含む食事が必要です。食物繊維には老廃物や毒素の排出を促す効果がありますが、摂り過ぎると必要なミネラルまで排出してしまうので過剰な摂取には気お付けましょう。
筋肉の減少
糖質制限によりエネルギーを失った体は、脂肪や筋肉からエネルギーを作るようになります。つまり脂肪をエネルギーに変える糖質制限ダイエットは筋肉も減少していることを忘れてはなりません。筋肉の減少は基礎代謝が低下し脂肪燃焼において最も致命的です。
対策
糖質制限と並行してたんぱく質の摂取と筋トレをすることで筋肉の減少を抑えられます。
筋肉がダイエットにもたらす効果→健康で効率的!ダイエットを始めるには!
脳への影響
結論から言うと糖質制限は脳に影響はありません。脳のエネルギー源はブドウ糖(糖質)です。従って糖質が不足すれば脳は正常に働かないと考えられてきました。しかし近年、脳は糖質不足の環境下ではケトン体と呼ばれる脂肪を分解して出来る物質を代替エネルギーとして使える事が分かっています。また肝臓の糖新生の働きにより体内からブドウ糖を作り出す事が可能です。
しかしこれにはケトン体を作り出せるだけの中性脂肪やたんぱく質が必要になるため、ある程度ふくよか(デブ)でなければ脳に影響を及ぼす可能性があります。また糖新生についても肝臓がブドウ糖を作れる事が前提になる為、糖新生の働きに必要なアミノ酸や脂肪酸を普段の食事から十分に摂取する必要があります。
老化促進
マウスを使った糖質制限の実験があります。
実験では炭水化物をゼロにしたわけではなく、炭水化物の量を一年間制限したものです。
結果は目に分かるほどの変化に加え、寿命が20~30%短くなり、学習記憶能力の低下や脳の酸化ストレスの増加がみられました。マウスの寿命から人間に置き換えると60代後半に老化が顕著に表れると言われています。
しかしこの実験にはマウスの主食は穀物であり人間と比較するべきでは無いとした指摘や、低糖質制限下では糖新生が働かず、ケトン回路も使えないため、単にエネルギー不足に陥ったとした意見もあります。
歴史からみた糖質制限
特に筆者が危惧するのが歴史からみた糖質制限です。日本人がダイエットに糖質制限を取り入れ始めたのは2012年頃と人類史からみては超最新のダイエット方と言えます。本来こうした劇的な食事の変化は長年のデータから安全性が確認され、初めて実用化されるのが普通です。50年後の未来や妊婦における胎児への影響が無いと断言出来ない食事方を安易に取り入れるのはとても怖い事なのです。
医学の発展以前から日本人は一汁三菜(ご飯に汁もの、おかず3種)を大切にし、世界でも長寿国として認められてきました。しかし昭和40年から近年に至るまでの日本人における「PFCバランス」では脂質が増え、糖質(炭水化物)が減少し続けています。その結果、肥満や糖尿病などの生活習慣病が増加しました。この結果を受け健常者が、さらに糖質を制限する事が良い選択なのか疑問に思います。
最後に少しだけ糖質制限の問題における筆者の不満をぶちまけて終わりたいと思います。
糖質制限については賛成派と反対派が綺麗に分かれる事が多いです。糖質制限が危険であるとした認識が浸透するのに対し未だに糖質制限を擁護する人達の中には「人類は狩猟採集の時代にはマンモスや昆虫などのたんぱく質が主食で糖質は食べていなかったが生活は豊かだった。つまり人間のDNAは肉食に適しており糖質制限こそが健康に良い」と言っている方達が一定数います。
しかし狩猟採集時代の15歳まで生きた人間の平均寿命は32歳です。農耕を取り込み始めた当初の平均寿命が下がり病気が蔓延した事を理由にこうした仮説を支持しているようですが、これは農業社会に移行し人々が密集した事が原因で伝染病の拡大や格差社会の貧富を生み出しました。また狩猟採集とは違い農耕社会では自然災害により全滅することも珍しくありませんでした。こうした理由から当初は平均寿命が下がったものの農耕安定期には平均寿命が59歳まで伸びています。ちなみに比較の対象にはならないですが現代の平均寿命は85歳です。
糖質制限ダイエットは短期間で体重を落とす事が出来ます。是が非でも糖質制限を行いたい為にその危険性から目をそらし、正当化するために糖質制限が安全である理由を求めます。そのため糖質制限を支持する記事や本は売れます。利益の為に糖質の危険性を誇張したり、お米(炭水化物)の糖質と精製された砂糖の糖質を同等に扱う等の大衆を煽る誇大広告や本、記事には少しイラっとしますね(^ω^)
最後に
強い甘味のある糖質(砂糖)や焦げた糖質(AGE)は制限した方が健康的ですが、炭水化物の制限は危険性を理解したうえで無理なく短期的に行うよう必要があります。
健康かつ安全な糖質制限を心がけましょう。(/・ω・)/