ここでは安くて硬いお肉でも、軟らかくジューシーで劇的に美味しいお肉に変える方法について具体的に紹介します。
その方法とはお肉を漬けこむ事です。フランス料理では「マリネ」と呼ばれる調理法ですが家庭でも気軽に実践する事が出来ます。
【マリネ】は食材を、酢やアルコール等のマリネ液(マリナード)に浸し、軟らかくして香りを付ける調理法です。
マリネはフランス料理の古典的な下処理として認識されており、現代では保存や肉を軟らかくする際に用いられます。
例えばマリネされた牛肉ではマリナードが完全に浸透し、一口ごとに風味と肉汁が口いっぱいに溢れてきます。
マリネの特性は酸性の液体(マリナード)に浸す事により起こる、タンパク質の分解と筋繊維の軟化にあります。つまり筋繊維たんぱく質の多い肉類はマリネに適していると言えます。
1 マリナードを作る
まずはお肉を漬けるマリナード(マリネ液)を作っていきます。
マリナードにはお肉を軟らかくする要素と香りを付ける要素が必要になります。
まずはお肉を軟らかくする方法を解説します。
お肉のタンパク質には筋原線維たんぱく質と結合組織たんぱく質の2種類があります。
加熱するとこれらのタンパク質が変質し、凝固、収縮してしまい、お肉が硬くなってしまいます。しかしマリネにはタンパク質の性質を変える効果があり、加熱してもお肉が硬くならないのです!
筋原線維たんぱく質の分解
ワインやビネガーの様な酸性の液体に浸すと、お肉に含まれる結合組織たんぱく質であるコラーゲンのゼラチン化が促進されます。コラーゲンは加熱によって凝固するタンパク質ですが、マリネによって加熱すると軟らかくなる性質に変化します。
また酸性下では肉の筋繊維に隙間が生じて水分が入り込み保水性が高まります。
一般的にマリネではワインを使うのが普通ですが、筋原線維たんぱく質を分解する効果を得られるマリネ液を挙げておきます。
筋原線維たんぱく質を分解するマリネ液
- 赤ワイン
- 白ワイン
- 赤ワインビネガー
- 白ワインビネガー
- レモン汁
- 酢
※ワインを使う際に注意したいのがアルコールの強すぎるワインでは肉の水分がアルコールに吸収され肉が乾燥して硬くなる事です。香りの強いマディラ等の酒精強化ワインでは半分ほどアルコールを煮切ってから使うようにしましょう。
お肉やワインの風味を生かしたい場合は煮切って使いますが、マリネでは食材に香りを移す際にアルコールを利用する為に煮切らない場合が多いです。またアルコールには、筋繊維タンパク質の網目状の組織の中に入り込み、水分を保つ保水効果もあります。
結合組織たんぱく質の分解
タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)には、肉の筋原線維タンパク質や結合組織タンパク質を分解する働きがあります。タンパク質がアミノ酸に分解される過程で、筋繊維間の結束が弱まり、軟化が進みます。
ヨーグルトに漬け込むタンドリーチキンが軟らかいのはこの理屈です。他にも酢豚のパイナップや豚の生姜焼きも同じです。
またマリネ液による酸性下ではタンパク質分解酵素は、より活性化しお肉を軟らかくしてくれます。
タンパク質分解酵素を含む食品
- パイナップル
- キウイ
- ヨーグルト
- 玉ねぎ
- セロリ
- 舞茸
- 生姜
- 蜂蜜
- 味噌
- 麹
タンパク質分解酵素は熱に弱いため生のまま使用します。
ミキサーにかけたり、すりおろして使うとより効果的です。また蜂蜜は水飴では無い純粋蜂蜜を指します。
風味、香りを付ける
お肉のマリネではワインやハーブ、スパイス、香味野菜によってお肉に香りや風味を付けます。
赤ワインは度数12~14の余っている安いもので十分です。
香味野菜は人参、玉ねぎ、セロリが一般的です。ハーブやスパイスも決まりは無いので入れたいものを入れて構いませんが、食材との相性が良いとされるものを紹介しときます。
ハーブやスパイス
- 牛肉―タイム、ローリエ、オレガノ、ディル、黒胡椒、ニンニク
- 豚肉―タイム、ローズマリー、セージ、生姜、白粒胡椒、ニンニク
- 鶏肉―タイム、ローズマリー、白粒胡椒、ニンニク
ハーブやスパイスに決まりは無いですが、タイムを入れるだけでも雰囲気もが出るのでおススメです。筆者的にはナツメグを入れると美味しいですが、少量でも完成時の雰囲気はガラッと変わるのでお好みで試してみて下さい。
これらの香り、香気成分には水溶性と脂溶性に分ける事が出来ます。水溶性香気成分が水分に溶けるのに対して、脂溶性の香気成分は油に溶け、水分には溶けにくい性質があります。
香気成分は圧倒的に脂溶性が多く、ハーブやスパイスも脂溶性です。脂溶性の香気成分を活かすには、中華料理の山椒や唐辛子を油で炒めている様に、香りを油に溶かす必要があります。トリュフ油やネギ油もその例です。
つまり本来であれば脂溶性であるハーブやスパイスをマリナード(水分)の中に漬けても十分に香りを引き出す事は出来ません。この際に重要になるのがワインに含まれるアルコールです。アルコールは水溶性と脂溶性の両方の香りを溶かす事が出来ます。専門的言うとアルコールは極性と非極性の両方に惹かれる性質を持っていると言う訳です。これがマリネにおけるお肉に香りが移る仕組みです。
マリネの方法
マリナードが完成すれば後はタッパー等の容器に漬けるだけです。
マリネの時間はサイズや部位によっても異なります。
牛肉の場合30分マリネして1~2㎜程度の浸透と考えて計算してください。筋原線維のより多い肉ほど時間がかかります。部位にもよりますが、牛肉→豚肉→鶏肉の順にマリネの時間が必要な場合が多いです。特に鶏もも肉では筋原線維が多く、最低でも24時間はマリネする必要があります。
マリナードに上記で説明したタンパク質分解酵素を含む場合は、これよりも短い時間で効果を感じられると思います!
塩のタイミング
塩はマリナードと同時に入れるか焼いた後に振るかの二択です。肉を焼く直前に塩を振っても肉には浸透しません。
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簡単にマリナードを浸透させるには、一口サイズにカットする方法があります。これによりマリナードに触れる表面積が増えるので直ぐにマリネ出来ます。しかし、どうせなら塊まま食べたいですよね。
ブロック肉や厚い肉をマリナードに漬ける前に半分だけ加熱し、冷ました後にマリネします。加熱された肉の表面には亀裂が出来ます。この亀裂にマリナードが溜まり、より多くのマリナードを含ませる事が出来ます。
また注射器で内部から直接マリナードを注入する方法もあります。商店で売られているブロック肉のマリネでは少量のマリナードでマリネ出来るために、この方法が用いられています。注射器と注射針は薬局で購入できます。
肉の火入れ
焼き方は何でも構いませんが筆者がおススメする焼き方を2つだけ紹介します。
1つ目は比較的低い温度で焼く事です。
マリナードに含まれるアルコールの沸点は78度と低いため、低温でも火が通りやすくなります。
初めに表面だけ強火で風味を付けると、後は弱火で火を通します。アルコールの保水効果と沸点の低下により加熱時間の短縮と高い温度を避けられるので、肉の水分を失わずに火入れ出来ます。
2つ目はバーベキューです。
具体的には炭火で焼いた場合です。炭火は遠赤外線による輻射熱で、肉の内部まで素早く均一に火が通る事から肉が美味しく焼けると人気の焼き方です。
マリネした肉を炭火で焼くと、マリナードを含んだ肉汁が炭火に垂れ落ち煙が出ます。その香ばしい煙(燻煙)が肉に舞い上がり、付着する事で燻製に近い効果が得られます。
「香り」はマリネよりも燻煙の方が数段速く浸透するので、マリネした肉を炭火で焼くのは最強と言えます。
バーベキューのパリピ空間嫌い
最後に
安いて硬いお肉が軟らかくて美味しく変身したら最高ですよね~
是非試してみてくださ~い(/・ω・)/